可愛い遊牧民の少女をカメラに収めようとする旅人。
知らず知らず仕事の邪魔をしている旅人に向かって少女は言い放ちます。
「写真を撮るならこっちへ来ないで!!」
それがプージェーと関野吉晴さんの出会いでした。
その出会いは旅人と被写体という関係では終わりませんでした。
6歳の少女の態度に遊牧民のプライドや誇りを強く感じた関野さんは、
プージェーの家に通いつづけます。
財産である馬が盗まれるという災難。祖父の死、そして最愛の母の死。
急速に変化していくモンゴルの平原そのもののように、プージェーの人生にも大きな変化が起こります。
歳月が流れ、プージェーと関野さんの関係も、旅人から親しいおじさん、そして家族同然の人へと変化していきます。
そして、プージェー自身の夢も変わります。プージェーは徐々に関野さんの祖国日本に興味を抱き始め、関野さんに同行している通訳のお姉さんに憧れ、自分も日本語の通訳になろうと思い始めたのです。
元々学校の先生になりたいと思っていたプージェーですが、彼女の夢は大きく飛躍しました。
初めて小学校に登校した日、黒板を見つめるプージェーの瞳の中に、夢に向かって歩いていく決意が美しいと言えるほど輝いて見えました。
関野さんがプージェーの遊牧民らしさに魅かれて始まったこの出会いは、結果としてプージェーに遊牧民にならないという将来をしっかりと選択させてしまいます。
人は人に出会うことによってお互いを変えてしまうこともあります。
そのことで、人生はより深く、多様性に富んだものになっていくような気がします。
人と人が出会うということ。
そこには、国境や国家で人と人をわざわざ対立させてしまう余計な概念が入り込む隙間がありません。
自然界では、すべての物がお互い作用しあい、常に変化していきます。人の世の出会いもそういうものなのではないでしょうか。
自然も人間も人生も多様です。
地球の片隅。誰も関心を抱かないで通り過ぎてしまう車窓の風景の中にも、
多くの出会い、変化、羽ばたきがあります。
この映画が、「人と人との出会い」そして「変わること」の重さを表現できていれば幸いです。
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